Archive for 2014年3月28日

ゼロ・グラビティ

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映画は観るものを色々な世界に連れて行ってくれます。この映画の行き先は、私たちの真上、600キロ上空の「ゼロ・グラビティ」、無重力空間です。

ふわりと浮かびながらインタビューに応える日本人宇宙飛行士の映像を見かける事が珍しくなくなり、また一般人向けの宇宙旅行計画もあると聞くと、もう気軽に行けそうな場所に思えるのだけれど・・・。

非日常の空間過ぎです。息、詰まります。

目の前に広がる地表の球面と覆う雲の微妙な凹凸、そして漆黒の宇宙空間。映画館という暗闇の中で3Dのスクリーンで観るから、疑似体験が出来るのでしょう。この映像は家庭のテレビでは再現しきれないのではと思えるスケールです。

ストーリーはシンプル。登場人物も2人だけと言っていい。90分という短い作品ですが、濃いめのコーヒーのように、ギュッと詰まってコク切れとも図抜けています。

楽しむ映画というより、新しい映像体験でした。第86回アカデミー賞で監督賞の他、作曲賞、視覚効果賞、編集賞、録音賞、音響編集賞、撮影賞を受賞した事が物語っているでしょう。

★★★★★

ラファエル前派展その2

 

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ラファエル前派展から風景で印象深かったフォード・マドックス・ブラウンの「穀物の収穫」です。夕刻の赤い光に照らされた畑。そして醒めた青空にねぐらに帰る鳥たちとぼんやり浮かぶ白い月。思わず描きたくなるような風景です。会場には彼の作品が3点並んでいるのですが、どれも素敵な風景でしかも部屋に飾りたくなるようなちょうど良い感じの絵画でした 🙂

 

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風景もう一点は、ウィリアム・ダイスの「ベグウェル・ベイ、ケント州-1958年10月5日の思い出」です。海岸で貝を拾い集めている人たちを描いたこの作品。何気ない風景のようですが、描かれた風景はタイトルのこの日だけのものなのです。秘密は空にあります。

img_single_artworks61円の中の白くうっすらとした線。これ実は当時、世界各地で観測されたドナティ彗星(ウィキペディア)です。ちなみに次に地球に近づくのが、3811年なのだそうです。残念ながら見られそうにないですね 🙂

最後にロセッティを。まずは「ダンテの愛」。ロセッティの洗礼名は”ダンテ”ですが、タイトルのダンテはダンテ・アリギエーリ(以降ダンテ)、叙事詩「神曲」を書きました。ロセッティはダンテに心酔していました。父親がダンテの研究者だった影響でしょう。さて、この作品。戸棚の扉パネル用に描かれたものです。随分と贅沢な家具ですね。元々が家具用なので、デザイン性が高いです。「神曲」の一節をヒントに左上の太陽がキリストで、右下の月がベアトリーチェ。中央に愛の寓意像が立っています。img_sing

ロセッティの描く女性は本当に美しいのですが、その中でも、今回の展覧会で一番美しいなと感じたのが、「最愛の人(花嫁)」です。

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取り囲む人たちもそれぞれ美しく描かれていますが、引き立て役になって、中心の花嫁を際ただせています。

最後に展覧会のポスターに使われた「プロセルピナ」ロセッティが神話に題材を取った作品です。春の女神プロセルピナが手にしているのはザクロ。そのザクロの種を食べると1年の半分を地下世界、残り半分を地上世界で過ごすというように、両方で交互に生きなければならなくなります。

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絵の中のプロセルピナは種を食べようか、少し逡巡しているように思えます。

この他にもまだまだ素晴らしい作品がありますので、是非たっぷりと時間をとって楽しんでいただきたいと思います。

春は来る

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早朝、ここを訪れる手前で見た気温表示がマイナス6度でした。風が吹く度に極薄く積もった雪がぱーっと舞い上がり何処かへと飛ばされていきます。広場の中央には足場が組まれ、その中に春を待つ樹木があります。三春の滝桜です。

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でもご心配なく。この春のためにメンテナンスをしているところです。

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ゴールデンウィーク頃にはきっとキレイな姿を見せてくれるはずです。東北の春はちょっと遅いけれども、必ずやって来ます。

ラファエル前派展その1

11baaeddd833f266bcabd283a777791a「うさぎ」に「つの」と書いて兎に角、素晴らしい絵画ばかりの展覧会です。ラファエル前派展@六本木ヒルズ。「ラファエル前派」と耳慣れない言葉ですけど、あまりとらわれないで是非見に行って頂きたいです。 IMG_2124   まずはお出迎えしてくれたアーサー・ヒューズの「4月の恋」。どこか判然としないその表情をして「暗い部分が青空か雨雲か見分けのつかない4月の空のように揺れ動いている」と評されました。絡まったアイビーは彼女の近い未来への暗示でしょうか。この葉が実にリアルで、描き手の技術力の高さが窺い知れます。女性の後ろには、チラッとのぞいている手は恋のお相手かも。色々と想像をかき立てられるこの作品だけでも来る甲斐があります。また今回の展覧会の額縁もそれぞれ面白く、個人的にはそれも楽しめました。

続いてはミレイの作品が並びます。代表作「オフィーリア」。夏目漱石の小説「草枕」の一節に。

余が平生から苦にしていた、ミレーのオフェリヤも、こう観察するとだいぶ美しくなる。何であんな不愉快な所を択(えら)んだものかと今まで不審に思っていたが、あれはやはり画になるのだ。水に浮んだまま、あるいは水に沈んだまま、あるいは沈んだり浮んだりしたまま、ただそのままの姿で苦なしに流れる有様は美的に相違ない。それで両岸にいろいろな草花をあしらって、水の色と流れて行く人の顔の色と、衣服の色に、落ちついた調和をとったなら、きっと画になるに相違ない。

IMG_2121   と、登場人物に語らせていますが、これは、この作品に対する漱石の思いなのでしょうね。「美的に相違ない」なぞと、変化球な感想ですけど 🙂 同じくミレイの「マリアナ」も美しい絵画です。女性のポーズもさることながら、周りの素材感の描き分けが人間業とは思えないほど凄いです。 IMG_2119 ミレイの「釈放令、1746年」の犬の毛並み!思わずなでたくなります。 IMG_2123 ミレイばかりではありません。小さな作品ながら、思わず入って行けそうなヘンリー・ウォリスの「シェイクスピアが生まれた部屋」。空間もそうですが、イスに使われている木がそれぞれ違います。緻密に描き分けられています。 wa02 ジョン・ブレットの「ローゼンラウイ氷河」という作品。特に手前の石は”石”そのもの。凄すぎです。 John_Brett_-_Glacier_of_Rosenlaui_-_Google_Art_Project   続きます。